ピルについて (平成11年3月20日荘内日報掲載分の抜粋)

ピル(Pill)は飲む避妊薬です。つまり、「経口避妊薬」と言われます。 このたびようやく解禁されました。ようやくというのは、許可の申請は十年も前から出されていたのです。 まして世界では、国連加盟国のほとんどがピルを承認していたのです。
日本ではなぜ遅れたのか。一番の原因はこの10年の間に発生したエイズの問題です。 ピルを解禁するとエイズ感染者が増えるというのです。確かにエイズを予防するにはコンドームが一番なのですが、 それはあくまでもエイズの感染者とセックスをした場合のみであって、 ふだん夫婦間でセックスを行う場合は何の心配もいらないのです。

もう一つの問題点は、ピルはホルモン剤なので、 これが尿に排せつされて環境ホルモンとして何らかの有毒物質として働くのではないか、 という危ぐが出てきたのです。しかし、ピルに含まれるホルモン剤は妊婦さんの尿に出ているホルモンとほぼ同じもので、 妊婦さんはピルの何千倍ものホルモンを排せつしています。環境ホルモンを心配するということは、 妊婦さんにおしっこをするなということと同じです。
さて、なぜピルは服用すると妊娠しないのでしょうか。今から約40年前、 アメリカのある医者が、妊婦さんが妊娠しないことに目を付けたのです。
妊娠すると胎盤ができ、その胎盤からのホルモンで赤ちゃんを育てていくのですが、 同時に女性のホルモンのコントロールをしている脳下垂体に働いて妊娠を知らせます。 妊娠を感知した脳下垂体は直ちに卵巣に命令を出し、排卵をストップさせます。 排卵がなくなるので妊娠しませんし、その後の月経はなくなります。  なぜこうなるのかというと、ひとたび妊娠したのにまた妊娠しては困るのです。 おなかの中に8ヵ月の胎児と4ヵ月の胎児ができては困るのです。

そのため、妊娠したら胎盤のホルモンで胎児を保護し、同時に次の妊娠をストップさせているのです。
また、分娩後は胎盤がなくなっているのになぜしばらく無月経で妊娠しないかいうと、 おっぱいのホルモンがこの働きをし出ています。おっぱいのホルモンはおっぱいを出しながら卵巣を抑制して排卵を止めているのです。 しかし、離乳をするとおっぱいのホルモンの卵巣への抑制がとれて、排卵が起こり月経が再開します。  すなわち、神様(としか言いようがないのですが)は、女性の身体を、ひとたび妊娠したらその子を産んで、 その子が乳離れをするまで次の妊娠をしないような仕組みにしているのです。
ピルにはこの妊娠のホルモンがチョッピリ入っています。ピルを服用すると軽い妊娠状態になります。 服用すると1~2日目位にムカッとくる人もいます。「つわり」です。すると脳下垂体が妊娠と錯覚して卵巣に命令を出して、 排卵をストップさせます。排卵がなくなるので妊娠しません。また、服用をやめれば通常の月経の発来と同じ仕組みで月経が来ます。

現在、世界中で約1億以上の人がピルを服用しているといわれます。 なぜピルが避妊法の主流になったのでしょうか。それは避妊効果が抜群に高いということです。 キチンと服用すれば1000人にひとりも妊娠しません。
ちなみにリング(IUD)は100人に3人ぐらいの割合で妊娠します。 日本で避妊に失敗して人工妊娠中絶を受ける人の80%は、オギノ式とコンドームを併用している人です。 つまり、オギノ式で排卵前後の日数を計算してそこでコンドームを使い、ほかの日は安全日として使用しないという人たちです。 ピルがコンドームにとって代わることによって、悪名高い日本の人工妊娠中絶をドラマチックに減らすことが可能になります。
ピルが普及したもう一つの理由は、含まれているホルモンが格段に少量になった(いわゆる低用量ピル)ことで、 かつてあった血液を凝固させ血栓を作るという副作用が、皆無とは言えませんがほとんどなくなりました。

薬には必ず副作用がありますが、ピルにはその反対の良い副作用「福効用」があります。その一つが、 月経が極めて規則的に発来するということです。1年~2年先の月経まで計算できます。また、生理痛の強い人はやわらぎますし、 月経血量の多い人は少なくなります。使い慣れてくると月経の発来日の調整もできます。
また、ピルの服用者に卵巣がんが少ないというデータもあります。卵巣では毎月排卵を起こしていますが、 これは卵巣を覆っている腹膜という膜を破ってしまいます。そのキズから卵巣がんが発生するとも言われており、 ピルはこの排卵を抑えるので、卵巣にキズがつかず卵巣がんになりにくいと言われています。
また、コンドームのように行為を中断して装着したり、性感を損ねることもありません。特に未産婦(思春期の若年層も含めて) の場合はIDUも装着しにくいのでピルがおすすめです。
このように優れたピルですが、欠点がないわけではありません。 それはキチンと服用しないで忘れたりすると不規則な出血が起こったり、妊娠してしまうことがあります。 血栓の問題も全くないわけではありません。また、多くの人々がピルを服用することによって、 その尿に含まれたピルのホルモンが、環境ホルモンとしてどのように作用するかは、今後の調査を待たなければならないでしょう。
このたび解禁された低用量ピルには数種類の服用方法があり、それぞれ長所短所があります。 医師と相談して自分に合った方法を選択することになります。
ピルは保険が適用されないので希望すれば数カ月分をまとめてもらうことができますが、 6ヵ月ごとに血液検査が必要になります。産婦人科医の処方により利用者の手に渡り、費用は1ヵ月分3000円です。